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高松高等裁判所 昭和46年(ネ)273号 判決 1972年11月20日

控訴人(附帯被控訴人)

森口幸雄

控訴人(附帯被控訴人)

西村英雄

右両名代理人

山口春一

被控訴人(附帯控訴人)

小田偉正

右代理人

島崎鋭次郎

主文

原判決中、主文第二、三項を取消す。

控訴人(附帯被控訴人)森口幸雄は被控訴人(附帯控訴人)に対し、金一五万八〇〇〇円およびこれに対する昭和四四年一一月一九日以降右支払済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

控訴人(附帯被控訴人)西村英雄は被控訴人(附帯控訴人)に対し、金三一万三四〇〇円およびこれに対する昭和四四年一一月一九日以降右支払済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は、第一、二審を通じこれを三分し、その一を控訴人(附帯被控訴人)森口幸雄の負担とし、その余を控訴人(附帯被控訴人)西村英雄の負担とする。

この判決は、被控訴人(附帯控訴人)において、控訴人(附帯被控訴人)森口幸雄に対し金五万円の担保を供するときは主文第二項につき、また控訴人(附帯被控訴人)西村英雄に対し金一〇万円の担保を供するときは主文第三項につき、それぞれ仮りに執行することができる。

原判決中、被控訴人の第二次請求を認容した主文第一項およびこれに対して仮執行の宣言を付した主文第四項の部分は、当審で第一次請求を認容したことにより失効した。

事実

控訴人(附帯被控訴人、以下単に控訴人という)両名代理人は、「原判決主文第二項を除くその余の部分を取消す。被控訴人(附帯控訴人、以下単に被控訴人という)の第二次請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」との判決および「被控訴人の本件附帯控訴を棄却する」との判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する」との判決および附帯控訴につき主文第一ないし第四項同旨の判決ならびに主文第二、三項につき仮執行の宣言を求めた。

当事者双方の事実上法律上の主張、提出援用した証拠、認否は、つぎに訂正付加する外は原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。(但し、原判決三枚目表三行目に「一月」とあるのを「一一月」と訂正する。)

(証拠関係)<略>

理由

一被控訴人が建具類の販売を業とする商人であることは当事者間に争いがない。

二そこでつぎに、被控訴人がその主張の如く控訴人両名にアルミサッシ類を売渡したか否かについて判断する。

<証拠>を綜合するとつぎの如き事実を認めることができる。すなわち、訴外有限会社高橋建設(以下単に高橋建設という)は、昭和四四年七月三三一日、控訴人西村から同控訴人方の鉄骨ブロック建住宅の新築工事を代金一一三万円で、また同年八月三〇日、控訴人西村の紹介で、同控訴人を通じ同控訴人の義兄(実姉の夫)にあたる控訴人森口方居宅の増改築工事(天井、壁、戸障子等の改造工事と風呂場、便所の増築工事)を代金六二万円で、それぞれ請負い、右各契約締結後間もなくその工事に着工したこと、ところで、右控訴人西村方の新築家屋および控訴人森口方の増改築家屋には、アルミサッシの戸やその他の戸障子を取付けることになつていたところ、控訴人西村が右各契約を締結した後高知市若草町で公衆浴場を営む同業者某を訪れた際、たまたま被控訴人が同所でサッシ戸を取りつけていたところから、控訴人西村は前記高橋建設に工事を請負わせた家屋にとりつけるサッシ戸などを被控訴人方から購入しようと考え、その頃自己の名刺(甲第二号証)を被控訴人に渡すなどして右家屋にとりつけるサッシ戸などの見積方を依頼したこと、そこで被控訴人は、その翌日ないし翌々日頃、控訴人西村方の家屋新築工事現場に赴き、同控訴人方に取りつけるサッシ戸などの見積をしたが、その際には主として控訴人西村がサッシ戸の取りつけ場所やデザインなどを指示し、前記新築工事を請負つていた高橋建設の代表者である訴外高橋正は、その場に居合わせながら単に技術的な助言をしたに過ぎないこと、また被控訴人が控訴人西村方に右見積に赴いた際、控訴人森口から同人方の前記増改築工事の施行につき一切の権限を委任されていた控訴人西村は、控訴人森口の代理人として同控訴人方の右増改築家屋に取りつけるサッシ戸なども被控訴人から購入すべく、被控訴人に対し、控訴人森口方に取りつけるサッシ戸などの見積も一緒にして欲しいと依頼したので、被控訴人は右同日控訴人西村と共に控訴人森口方に赴き、右サッシ戸などの見積をしたが、その際にも、控訴人西村がその取りつけ場所などを指示し、訴外高橋正はその折には被控訴人と共に控訴人森口方へ行くことさえもしなかつたこと、そして被控訴人はその頃かねてから控訴人西村方の事情を知つていた自己の便用人白石禎に、同控訴人方の信用状態などを確かめ、同控訴人は公衆浴場を経営していて右浴場組合の副理事長もしており、代金の支払能力もあることなどを聴取した上、右控訴人西村方の新築家屋および控訴人森口方の増改築家屋に取りつけるサッシ戸などを売却することにしたこと、しかして被控訴人と控訴人西村との右サッシ戸などの取引の交渉過程において、前記高橋正は控訴人西村と共に被控訴人と会つたことはあるが、当時控訴人西村や右高橋正らから被控訴人に支し前記控訴人両名方の新築および増改築工事は、高橋建設が請負つているものであつて、右サッシ戸類も同会社が購入して取りつけるものであるとの意思表示は全くなされなかつたし、またその後被控訴人方で控訴人ら方に納入するサッシ戸などの調達調整に手間とり、その納入が遅れた際にも、控訴人西村が屡々被控訴人に対し、直接電話でその納入方の督促をしたこと、一方、被控訴人方では、従来から始めての顧客と本件の如きかなり多額に上るサッシ類の販売取引をする場合には、事前に買主の信用調査をするか、或は少なくともその代金の半額程度の支払いを受けてその販売取引をすることにしていたところ、本件では前述の如き経過から、控訴人西村方の前記新築工事および控訴人森口方の前記増改築工事はいずれも同控訴人らの直営工事(大工等を雇つて工事をすること)であつて、右サッシ戸などの注文者は控訴人らであると考え、専ら控訴人西村の信用状態を調査して同控訴人を信頼し、それ以外に高橋建設の信用調査などは全くすることなく(当時はその存在さえ知らなかつた)、右サッシ戸などを売却することにしたことにしたものであること、なお、控訴人森口は控訴人西村の義兄であり、かつ控訴人西村がその代理人として行動していたところから、控訴人西村を信用し、直接控訴人森口の信用調査などはしなかつたこと、そして、被控訴人は、その後いずれも代金の支払期を明確に定めることなく、昭和四四年一〇月二〇日頃から同月三一日までの間にアルミサッシ戸などの戸障子を、代金合計金一五万八〇〇〇円で、またサッシ小窓を、代金五二二〇円で、それぞれ控訴人森口に売渡す趣旨の下に、同控訴人方に搬入して引渡し、また同年一〇月二一日から同年一一月四日までの間にアルミサッシ戸などを代金合計金三一万三四〇〇円で、控訴人西村に売渡す趣旨の下に搬入して引渡したが、右引渡に際しても、控訴人森口の妻や控訴人西村らがほとんどその引渡を受けたこと、その後同年一一月になつてから被控訴人の妻が右サッシ戸などの代金の請求書(甲第一号証、同第四号証、乙第五号証)を作成して控訴人ら方にその支払請求に赴いたところ、控訴人森口からそのうち乙第五号証の請求書にあるサッシ小窓の代金五二二〇円のみの支払を受けたこと、ところが控訴人ら方の前記新築および増改築工事を請負つた高橋建設は昭和四四年一〇月二九日に倒産し、ついでその後同年一一月五日頃、右高橋建設から被控訴人に対し、前記被控訴人が控訴人ら方に納入したサッシ戸などの買主は高橋建設であるとして、同月六日開催の同会社の債権者集会に出席するよう通知があつたので、被控訴人はこれに驚き、突差に前記控訴人らに納入したサッシ戸類は控訴人西村らに詐取されたものであると即断し、直ちに右納入したサッシ戸類を引きあげようとしたが、控訴人西村や警察官らに制止されてこれを取りやめ、その後高橋建設の代表者高橋正方に赴いて同人と話し合つた結果、同人から右サッシ戸類は高橋建設が注文したものではないことの確認を得てその旨記載した甲第三号証の書面の作成交付を受けたこと、以上の如き事実が認められる。

しかして以上の如き諸事実に、前記原審証人白石禎、同小田竹尾の各証言、原審および当審における被控訴人本人尋問の結果を綜合すると、被控訴人は昭和四四年一〇月二〇日頃から同年一一月四日頃までの間に、控訴人森口についてはその代理人である控訴人西村を通じ、控訴人森口、同西村の両名に対し、それぞれ被控訴人主張の如きアルサミッシ戸などを前記認定の如き代金で、その支払期を特に定めることなく売渡したものというべく、右買主は控訴人両名であつて訴外高橋建設ではないと認めるのが相当であり、以上の認定に反する原審および当審における証人高橋正(但し、原審は第一、二回)、同森口静子の各証言、控訴人西村英雄各本人尋問の結果はいずれもたやすく信用できず、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

三してみれば、被控訴人に対し、控訴人森口は前記売買代金一五万八〇〇〇円およびこれに対する本件支払命令の送達された日の翌日であることが記録上明らかな昭和四四年一一月一九日以降右支払済に至るまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があり、また控訴人西村は右売買代金三一万三四〇〇円およびこれに対する本件支払命令の送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四四年一一月一九日以降右支払済に至るまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

よつて、被控訴人の附帯控訴に基づき、右売買代金の支払を求める被控訴人の本訴請求を棄却した原判決部分(主文第二、三項)は不当であるから、民訴法三八六条により右原判決部分を取消して被控訴人の右第一次請求を認容し、原審および当審の訴訟費用の負担につき同法九六条八九条九三条を各適用して主文第四項のとおり定め、同法一九六条を適用して主文第四項のとおり仮執行の宣言を付することとする。なお、いわゆる請求の予備的併合においては、第一次請求が認容されることを解除条件として予め予備的に第二次請求の審判を求めるものであるから、第一次請求が認容された場合には、第二次請求は、訴の取下げがあつた場合と同様に、当然に審判の対象から除かれ、これに対する裁判を要しないものと解すべきところ(但し、第二次請求について確定的に訴訟係属が消滅するのは第一次請求を認容した判決が確定したときである)、この理は、第一審で第一次請求が棄却されて第二次請求が認容されたが、控訴審では一審判決と異なり第一次請求が認容された場合にも同様に解すべきである。したがつて、右の如き場合に、控訴審で第一次請求が認容されたときは、これにより第一審で認容された第二次請求は、当然にその審判の対象から除かれ、右第二次請求を認容した第一審判決部分は、これを取消すまでもなく当然に失効するものと解すべきであり、かつ、かかる場合にはその旨を主文に明記するのが相当である。これを本件についてみるに、原審は被控訴人の第一次請求を棄却し、第二次請求を認容したが、当審では右第一次請求が認容されたから、これにより被控訴人の第二次請求を認容した原判決主文第一項およびこれに対し仮執行の宣言を付した同主文第四項の部分は当然に失効するものというべきである(したがつて、本件控訴も当然にその対象を失うものというべきである)。よつて、主文でその旨明記することとして、主文のとおり判決する。

(加藤龍雄 後藤勇 小田原満知子)

【参考・原審判決理由】(高知地判昭和四六・九・三〇)

理由

一、第一次的請求について

第一次的請求の原因(一)の事実は、当事者間に争いがない。

原告は、被告らに対し、それぞれ、アルミサッシ類を各売渡した旨主張するので検討するに、これにそう証人白石禎の証言、および、原告本人尋問の結果は採用せず、他にこれを認めるに足る証拠はない。もつとも、甲第一および第四号証には、買主を被告らとする記載があるけれども、右は、原告の誤信によるものと認められるからその採証の用に供することはできない。

してみると、その余の点につき判断するまでもなく、原告の被告らに対する第一次的請求は、いずれも失当として棄却を免れない。

二、予備的請求について

<証拠>によれば、訴外高橋正は、訴外会限会社高橋建設の代表者であり、被告西村は、被告森口の姉の夫であつて、右高橋建設は、数年前から被告西村の世話で、家屋等の建築を請負いこれを施行し、工事を完成できなかつたことから、西村から資金の融通を受けその返済も十分でなかつたこと、そのため、右高橋建設は、昭和四四年七、八月頃、被告西村らから依頼を受け、同被告の家屋(三三坪)の新築、ならびに、被告森口方の家屋の増築を、前者につき金一、一三〇、〇〇〇円、後者につき六二〇、〇〇〇円(市価よりははるかに安く、全く利益のない価格)で請負い、その建築完成に当つていたがすでに資金ぐりに窮し、同年一〇月頃に至るも、右家屋への家具の取つけ等を残していたこと、右高橋は、同月初旬頃、被告西村とともに原告方へ赴き、右建築途上にある家屋等に用いるサッシ類を納入するよう求め、その代金を確かめることもなく帰宅し、これにより、原告は、同月下旬から同年一一月四日にかけて、アルミサッシ類(合計金四七一、四〇〇円相当)を被告西村方等へ搬入したところ、右高橋らはこれを右工事現場で受領していること、右高橋建設は、同年一〇月二六日、手形の不渡りを出していわゆる倒産状態に陥つているが、右高橋は、同月二八日、被告らに対しそれぞれ引渡書を差し入れ、右家屋は建築中であるがこれを有姿のまま被告らに引渡したこととし、残工事代金は一部請求せず、かつ、第三者から材料等の請求があつても被告らに何等迷惑をかけず、高橋において責任をもつ旨の一札をいれていること、原告は、右高橋建設倒産の事実のみならず、同年一一月上旬その債権者集会が開かれる事実も知らず、同月六日付で、右サッシ類の買主を被告西村らと考え、同被告らに対する請求書作所しているところ、被告西村らは、右高橋建設に対し、右家屋等の工事代金として合計金三〇〇、〇〇〇円を支払つた以外、その残額を支払つた形跡もないことがそれぞれ認められ、<反証排斥―略>。

以上の事実によれば、訴外高橋正は、有限会社高橋建設がいわゆる倒産寸前ないし倒産しているにもかかわらず、この事実を秘し、代金支払いの意思がないのにその存在を装い、原告からアルミサッシ類を騙取したものであると推認され、被告西村、同森口の間の身分関係、ならびに、右西村の右高橋との従前の関係、その他右家屋の建・増築契約の実情等に照らせば、被告らは、右高橋と意を通じて共同するか、少くとも、右高橋の不正行為を察知しながら、これに協力援用していたと認めるのが相当である。

してみると、被告らは、いずれにせよ共同不法行為者として、原告が右不法行為によつて蒙つた損害を賠償する義務がある。しかして、原告の損害は、右アルミサッシ代金相当額の金四七一、四〇〇円であると認める。<後略> (稲垣喬)

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